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アメリカ合衆国の「United States Institute for Theatre Technology / 米国劇場技術協会 / 通称:USITT」が提唱した「EIA-485」に基づく通信プロトコルです。
主に舞台照明や演出機器の制御に使われており、ANSI(American National Standards Institute / 米国国家規格協会)にも2004年に登録されたそうです。
規格書は英文で内容も難しい。規格の概要を理解するなら何と言ってもタマテックラボさんの勉強部屋が一番わかりやすいでしょう。
ここに規格の詳細を書いてもタマテックラボさんの丸写しになるだけですから、興味ある方はそちらをご覧ください。
Wikipediaにも解説があり、わかりやすくて詳しい資料のようです。
リンク切れがあったらご勘弁を。
上記の本家と規格書のリンクが無くなっていました。「ANSI E1.11-2008」として登録された為だと思います。
これは「DMX512-A」について記述された物です。
規格には大きく分けて世代別に3つあります。
細かな違いはありますが上位互換で、現行規格はDMX512-Aです。
DMX512 standard の器具はお目にかかったことがありません。
現在稼働中の器具のほとんどはDMX512/1990を元にしているようです。
DMX512-Aは、ベンダーコードなどの新たな要素を加えつつ、相性問題を避けるための仕様を盛り込んだ規格のようです。
1アドレスに対応する1データを表します。1スロットは8ビット(1バイト)のデータ単位で10進数なら0~255の値を表します。
DMX512においてはスタートコードを含めた513スロット(バイト)のデータ体を表す単位です。
[packet=小包]はネットワークシステム用語で、送受信されるデータの単位です。ネットワークでデータ送受信する場合はデータを小分けにして送り、受けた小分けデータでデータを再構成します。この小分けされたデータ体をパケットと呼びます。パケットのデータサイズはシステムが自由に定義できますので、パケット数が総データサイズを表すとは限りません。
このパケットという用語を動的データを扱うDMX512に用いると意味が若干違うような気もするのですが、一定サイズのデータ体を単位として情報をやり取りするのでパケットと呼ぶようです。
信号においてはBreak Timeを区切りにする一連と考えて良く、1秒間に最高速で約44回(約23m秒毎)のリフレッシュレートを持ちます。
DMX512の論理的な系統を表す単位です。物理的な系統ではありません。仮に2,048スロットを送るならDMX512が4系統必要ですから4ユニバースとなります。(ここの論理的、物理的の言葉はコンピュータ用語的な使い方で、一般用法とはちょっと違います。)
最近の制御卓はユニバースが物理回線に対し直結ではない(つまりユニバースと物理回線をパッチできる)ことが多いので注意が必要です。これは今後普及するであろうDMX512ノード(node)を使う上でも大事な概念です。
いわゆる「相性問題」ですが、規格の違いではなく、間違った解釈で作られた製品が出回ったことが原因のようです。DMX512/1990まではかなり大雑把な規格らしく、間違った解釈をされても致し方ないようです。
最近は相性問題によるトラブルをほとんど聞きませんが、自然淘汰に近い形で規格とおりの製品群になってきたのでしょう。
現場においてはDMX512/1990とDMX512-Aの違いが気になるところですが、主だった部分は同じでなので、実用上はそれほど気にする必要はないようです。
私が理解している大きな違いは次の通りです。
DMX512/1990 | DMX512-A | |
ベンダーコード | 未対応 | 対応 |
送受信スロット数 | 1~512 | 24~512 |
5Pキャノン以外の使用 | 記載なし | 原則禁止 |
ベンダーコードとは、スタートコードにメーカー独自のコードを用い、機器の設定操作やファームウェアのアップデートなどの通常制御以外の制御をするための宣言コードのようです。USITTに申請すれば取得できるようです。
通常制御のスタートコードは0x00です。本来は調光装置の制御を宣言するコードのようですが、0x00以外のスタートコードで通常操作をされても混乱するだけです。
スタートコードには、
Text packets (0x17)
System Information Packets (0xCF)
for the RDM extension to DMX (0xCC)
といったベンダーコード以外にあらかじめ定義された物もあるようです。
送信スロット数のバラつきは相性問題の大きな原因でした。
512スロットにしか対応しない機器ならば、256スロットしか送信しない制御卓では正常に動作しません。一見すると後者の方が間違っていそうですが、これは256スロットしか送信しない制御卓が規格に沿っていて、512スロットにしか対応しない機器が間違っています。
DMX512-Aにおいては、送信機が24スロット以上を送信し、受信機が24~512スロットの範囲すべてに対応するよう強く求めているようです。これによって相性問題が減るのだとおもいます。
最小24スロットの意図はわかりませんが、せめてこのくらいは送っとけよって感じだと思います。ちなみに、DMX512受信装置を作る場合、最小スロット数がこれくらい保障されていると接続状態の判定がしやすくなります。
DMX512の信号は3線ですから3Pキャノンコネクタを用いても実用上は何の問題もありません。3Pキャノンコネクタを採用している製品も多いですね。
DMX512/1990でも5Pキャノンコネクタが標準とされていますが、DMX512-Aから5Pキャノンコネクタ以外の使用は原則禁止となりました。
5Pキャノンコネクタを使う理由は「バカよけ」ではないかと思います。特に3Pキャノンコネクタはアナログ音声信号用として広く使われていますが、音声機器とDMX512機器が接続されると故障に結びつく可能性が高いので、トラブル防止を考慮したのだと思われます。
上記は互換性を維持した機能拡充と規格をより明確化したものなので、規格とおりに作られた機器ならDMX512/1990とDMX512-Aが混在しても通常操作において問題になることは無いと思います。
DMX512機器の製作においては、DMX512-Aで採用された新機能は使わず、DMX512-AにもDMX512/1990にもある機能をDMA512-Aの仕様に則って使うのがトラブルを最も少なくできる選択だと思います。
当たり前に使っているDMX512ですが、基本的な制約を知っているようで知らない。そんなことを書いてみます。
シールド付きツイストペアケーブルを使います。
規格ではRS485/422用ケーブルを使えとなっています。ケーブルメーカー各社が対応ケーブルを出しているのでそれらを使うべきでしょう。
カナレの4E6S(マイクケーブル)のようなシールド付きツイストペアケーブルも準対応品とされているようです。Fケーブルでもケーブルが短ければ普通に動いてしまいますが流石にこれはお勧めはしません。
DMX512のハードウェア実体であるRS-485(EIA-485)のケーブル最大長は1,500mですが、通信速度に反比例して距離が短くなります。250kbpsのDMX512におけるケーブル長は400mが上限だそうです。
ただ、これより長くても届くことがありますし、短くても届かないこともあります。最大値の目安とし、安全率を考慮して使うべきでしょう。
信号経路を二股ケーブルで分岐してはいけません。
二股ケーブルを使ってもほとんどの場合動きますが、規格上は信号経路をシングルラインにしなければなりません。分岐する場合はスプリッターを使います。
これはRS-485(EIA-485)の規格によるものですから、詳しくはそちらの技術資料を参照してください。
送信機(正しくは送信回路)に繋げられる受信機(受信回路)の最大数は32個です。受信回路(レシーバ)を最大64個繋げられる送信回路(トランスミッタ)ICもありますが例外的なことであり、規格上は最大32個です。これ以上になる場合はスプリッターを入れてバッファー(信号増幅)をする必要があります。
もちろん、スプリッターもレシーバの一つとして勘定しなければなりません。
ケーブル経路の末端に入れる抵抗で、末端反射による信号のにじみを防止します。
通常、120Ωの抵抗をDATA-ピンとDATA+ピンの間に入れます。
無くても動くことが多いですが、入れた方がいいと思います。
DMX512は様々な機器を使って便利に配信できます。
代表的な機器の種類を一覧します。
DMX512の物理実体であるRS485は、シングルライン接続が前提であり、二股ケーブルなどで信号経路を分岐してはいけません。
ですが、実際の配線では信号経路を分岐する必要があります。
スプリッターとはDMX512(RS485)の信号経路を分岐するための装置です。一つの受信回路(レシーバ)で信号を受け、これを複数の送信回路(トランスミッタ)に分配して再送出します。
スプリッターは比較的簡単な装置なので、詳しい解説と回路の実際を製作記事として別ページに挙げてみます。
信号経路を「アイソレーション」する装置です。
アイソレーションとは「電気的に絶縁すること」を意味しますが、アイソレーションしてあれば信号線のショートや機器の漏電などで信号経路が破綻した時にその影響を一部分だけでくい止めることができます。一箇所の故障で全体の機能が失われないための防波堤と思えばいいでしょう。
トランスを用いる方法と光半導体(フォトカプラ、フォトトランジスタ)を用いる方法がありますが今の主流は光半導体です。
製品は、アイソレーター単体で供給されることより、アイソレーション機能を併せ持ったスプリッターとして供給されることが多いようです。
これもスプリッターの製作記事に絡めて挙げてみます。
分岐ではなく、ミキサーの名前の通りDMX512信号を混ぜる装置です。複数のDMX512信号を1本のDMX512信号にします。アドレスごとにどの入力信号の値を使うか判断されます。
ほとんどの場合HTPで扱われます。HTPとは同じアドレスにおいて値の大きい方を採用する考え方です。
HTPに対するLTPは、値の大小に関係なく、入力信号の値が直近で更新された方を採用する考え方です。
自作するにはちょっと難しい装置です。
いわゆる「パッチ」をします。
入力信号と出力信号のアドレスをランダムに結び付け、DMX512のデータを交通整理します。
今時はパッチ機能を持った調光卓が一般的ですから需要は少ないかもしれませんが、一つのユニバースで複数のユニバースを制御するときには必要になることが多いと思います。
これもミキサー同様に自作するのは難しい装置です。
DMX512信号を無線で送受信する装置です。ケーブルの敷設が困難な状況では大変便利です。
ただし、汎用の2.4GHz帯を使う製品がほとんどなので、Wifiやデジタルワイヤレスマイクなどのこの帯域を使う製品が多くなった昨今は混信によって正しく機能しないことも少なくありません。
言うまでもなく、自作は困難な装置です。
機器メーカーが独自で採用した仕様がスタンダードとして使われていることがあります。
そんな仕様を書いてみます。
ひょっとすると、正規の規格に沿った5Pキャノンコネクタを使った製品よりも稼動数が多いかもしれません。
5Pのピンアサインを3番ピンまで使っているだけです。
問題なく動きますし、一般的なマイクケーブルが代用できるメリットもあり、何と言っても3Pコネクタは5Pコネクタより遥かに安価です。
ですが、規格書にあるとおり、音響回線に挿し間違えた場合にお互いの破損を招く可能性があります。特にマイク用のファンタム電源が通じているとDMX512機器が破損します。普及はしていますが、避けるべき仕様です。
DMX512信号とDC電源を一本のケーブルで送ります。主にスクローラーなどで使われています。
ピンアサインはほぼ統一されており、
とされることがほとんどです。
音響などで4Pキャノンコネクタを使われることが減ったので、挿し間違えによる破損の心配はほとんどありません。ただ、ケーブル等の故障で信号経路とDC電源経路がショートして機器の破損に至ることも少なくありません。ケーブルの製作には注意が必要です。コネクタのハンダ部には熱収縮チューブや耐熱チューブ、コーキングなどで絶縁カバーを施すべきでしょう。
用いられているDC電源電圧は+24vが主流ですが、まれに+12v、+48vの製品もあるようですから注意が必要です。
RJ45モジュラーコネクタを用いたEthernetケーブル(LANケーブル)をDMX512の配線ケーブルにする方法です。Ethernetケーブルを単に接続ケーブルとして使うだけですから、ACNやArt-Netのような「DMX over Ethernet」とは全く違います。もちろん経路中にEthernet-HUBが入っていれば通信できません。
EthernetケーブルのRJ45モジュラーコネクタは8極でツイストペアが1-2,3-6,4-5,7-8となっていますので、7-8をGNDとし他のツイストペアでDMX512信号を流すのだそうです。ストレートケーブルを用います。
ケーブルの性能的には十分可能なことですが、事故や混乱の元ですから避けるべきでしょう。目先の便利に眼が眩んでしまった典型的な愚行ですね。
調光器を制御するなら十分な性能で、ムービングライトや多機能LEDを制御するにおいても大きな不満はなく、何より広く普及しています。
これがベストだと言い切れる自信はありませんが、現実的なベターでしょう。