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DMX512とは

 アメリカ合衆国の「United States Institute for Theatre Technology / 米国劇場技術協会 / 通称:USITT」が提唱した「EIA-485」に基づく通信プロトコルです。

 主に舞台照明や演出機器の制御に使われており、ANSI(American National Standards Institute / 米国国家規格協会)にも2004年に登録されたそうです。

 規格書は英文で内容も難しい。規格の概要を理解するなら何と言ってもタマテックラボさんの勉強部屋が一番わかりやすいでしょう。

 ここに規格の詳細を書いてもタマテックラボさんの丸写しになるだけですから、興味ある方はそちらをご覧ください。

 Wikipediaにも解説があり、わかりやすくて詳しい資料のようです。

 リンク切れがあったらご勘弁を。

追記:2021/12/22

 上記の本家と規格書のリンクが無くなっていました。「ANSI E1.11-2008」として登録された為だと思います。

 これは「DMX512-A」について記述された物です。

規格の種類

 規格には大きく分けて世代別に3つあります。

 細かな違いはありますが上位互換で、現行規格はDMX512-Aです。

 DMX512 standard の器具はお目にかかったことがありません。

 現在稼働中の器具のほとんどはDMX512/1990を元にしているようです。

 DMX512-Aは、ベンダーコードなどの新たな要素を加えつつ、相性問題を避けるための仕様を盛り込んだ規格のようです。

DMX512のデータ構成を表す用語

相性問題

 いわゆる「相性問題」ですが、規格の違いではなく、間違った解釈で作られた製品が出回ったことが原因のようです。DMX512/1990まではかなり大雑把な規格らしく、間違った解釈をされても致し方ないようです。

 最近は相性問題によるトラブルをほとんど聞きませんが、自然淘汰に近い形で規格とおりの製品群になってきたのでしょう。

DMX512/1990 と DMX512-A の違い

 現場においてはDMX512/1990とDMX512-Aの違いが気になるところですが、主だった部分は同じでなので、実用上はそれほど気にする必要はないようです。

 私が理解している大きな違いは次の通りです。

DMX512/1990DMX512-A
ベンダーコード未対応対応
送受信スロット数1~51224~512
5Pキャノン以外の使用記載なし原則禁止

 上記は互換性を維持した機能拡充と規格をより明確化したものなので、規格とおりに作られた機器ならDMX512/1990とDMX512-Aが混在しても通常操作において問題になることは無いと思います。

 DMX512機器の製作においては、DMX512-Aで採用された新機能は使わず、DMX512-AにもDMX512/1990にもある機能をDMA512-Aの仕様に則って使うのがトラブルを最も少なくできる選択だと思います。

DMX512の制約

 当たり前に使っているDMX512ですが、基本的な制約を知っているようで知らない。そんなことを書いてみます。

用いるケーブルの種類

 シールド付きツイストペアケーブルを使います。

 規格ではRS485/422用ケーブルを使えとなっています。ケーブルメーカー各社が対応ケーブルを出しているのでそれらを使うべきでしょう。

 カナレの4E6S(マイクケーブル)のようなシールド付きツイストペアケーブルも準対応品とされているようです。Fケーブルでもケーブルが短ければ普通に動いてしまいますが流石にこれはお勧めはしません。

ケーブル長

 DMX512のハードウェア実体であるRS-485(EIA-485)のケーブル最大長は1,500mですが、通信速度に反比例して距離が短くなります。250kbpsのDMX512におけるケーブル長は400mが上限だそうです。

 ただ、これより長くても届くことがありますし、短くても届かないこともあります。最大値の目安とし、安全率を考慮して使うべきでしょう。

シングルライン接続

 信号経路を二股ケーブルで分岐してはいけません。

 二股ケーブルを使ってもほとんどの場合動きますが、規格上は信号経路をシングルラインにしなければなりません。分岐する場合はスプリッターを使います。

 これはRS-485(EIA-485)の規格によるものですから、詳しくはそちらの技術資料を参照してください。

トランスミッタ(送信機)に接続できるレシーバ(受信機)の数

 送信機(正しくは送信回路)に繋げられる受信機(受信回路)の最大数は32個です。受信回路(レシーバ)を最大64個繋げられる送信回路(トランスミッタ)ICもありますが例外的なことであり、規格上は最大32個です。これ以上になる場合はスプリッターを入れてバッファー(信号増幅)をする必要があります。

 もちろん、スプリッターもレシーバの一つとして勘定しなければなりません。

ターミネーターの使用

 ケーブル経路の末端に入れる抵抗で、末端反射による信号のにじみを防止します。

 通常、120Ωの抵抗をDATA-ピンとDATA+ピンの間に入れます。

 無くても動くことが多いですが、入れた方がいいと思います。

DMX512を配信するための機器

 DMX512は様々な機器を使って便利に配信できます。

 代表的な機器の種類を一覧します。

スプリッター

 DMX512の物理実体であるRS485は、シングルライン接続が前提であり、二股ケーブルなどで信号経路を分岐してはいけません。

 ですが、実際の配線では信号経路を分岐する必要があります。

 スプリッターとはDMX512(RS485)の信号経路を分岐するための装置です。一つの受信回路(レシーバ)で信号を受け、これを複数の送信回路(トランスミッタ)に分配して再送出します。

 スプリッターは比較的簡単な装置なので、詳しい解説と回路の実際を製作記事として別ページに挙げてみます。

アイソレーター

 信号経路を「アイソレーション」する装置です。

 アイソレーションとは「電気的に絶縁すること」を意味しますが、アイソレーションしてあれば信号線のショートや機器の漏電などで信号経路が破綻した時にその影響を一部分だけでくい止めることができます。一箇所の故障で全体の機能が失われないための防波堤と思えばいいでしょう。

 トランスを用いる方法と光半導体(フォトカプラ、フォトトランジスタ)を用いる方法がありますが今の主流は光半導体です。

 製品は、アイソレーター単体で供給されることより、アイソレーション機能を併せ持ったスプリッターとして供給されることが多いようです。

 これもスプリッターの製作記事に絡めて挙げてみます。

ミキサー

 分岐ではなく、ミキサーの名前の通りDMX512信号を混ぜる装置です。複数のDMX512信号を1本のDMX512信号にします。アドレスごとにどの入力信号の値を使うか判断されます。

 ほとんどの場合HTPで扱われます。HTPとは同じアドレスにおいて値の大きい方を採用する考え方です。

 HTPに対するLTPは、値の大小に関係なく、入力信号の値が直近で更新された方を採用する考え方です。

 自作するにはちょっと難しい装置です。

パッチマシン

 いわゆる「パッチ」をします。

 入力信号と出力信号のアドレスをランダムに結び付け、DMX512のデータを交通整理します。

 今時はパッチ機能を持った調光卓が一般的ですから需要は少ないかもしれませんが、一つのユニバースで複数のユニバースを制御するときには必要になることが多いと思います。

 これもミキサー同様に自作するのは難しい装置です。

ワイヤレス

 DMX512信号を無線で送受信する装置です。ケーブルの敷設が困難な状況では大変便利です。

 ただし、汎用の2.4GHz帯を使う製品がほとんどなので、Wifiやデジタルワイヤレスマイクなどのこの帯域を使う製品が多くなった昨今は混信によって正しく機能しないことも少なくありません。

 言うまでもなく、自作は困難な装置です。

亜流仕様

 機器メーカーが独自で採用した仕様がスタンダードとして使われていることがあります。

 そんな仕様を書いてみます。

3Pキャノンコネクタを使ったDMX512システム

 ひょっとすると、正規の規格に沿った5Pキャノンコネクタを使った製品よりも稼動数が多いかもしれません。

 5Pのピンアサインを3番ピンまで使っているだけです。

 問題なく動きますし、一般的なマイクケーブルが代用できるメリットもあり、何と言っても3Pコネクタは5Pコネクタより遥かに安価です。

 ですが、規格書にあるとおり、音響回線に挿し間違えた場合にお互いの破損を招く可能性があります。特にマイク用のファンタム電源が通じているとDMX512機器が破損します。普及はしていますが、避けるべき仕様です。

4Pキャノンコネクタを使ったDMX512システム

 DMX512信号とDC電源を一本のケーブルで送ります。主にスクローラーなどで使われています。

 ピンアサインはほぼ統一されており、

 とされることがほとんどです。

 音響などで4Pキャノンコネクタを使われることが減ったので、挿し間違えによる破損の心配はほとんどありません。ただ、ケーブル等の故障で信号経路とDC電源経路がショートして機器の破損に至ることも少なくありません。ケーブルの製作には注意が必要です。コネクタのハンダ部には熱収縮チューブや耐熱チューブ、コーキングなどで絶縁カバーを施すべきでしょう。

 用いられているDC電源電圧は+24vが主流ですが、まれに+12v、+48vの製品もあるようですから注意が必要です。

Ethernetケーブルを用いたDMX512システム

 RJ45モジュラーコネクタを用いたEthernetケーブル(LANケーブル)をDMX512の配線ケーブルにする方法です。Ethernetケーブルを単に接続ケーブルとして使うだけですから、ACNやArt-Netのような「DMX over Ethernet」とは全く違います。もちろん経路中にEthernet-HUBが入っていれば通信できません。

 EthernetケーブルのRJ45モジュラーコネクタは8極でツイストペアが1-2,3-6,4-5,7-8となっていますので、7-8をGNDとし他のツイストペアでDMX512信号を流すのだそうです。ストレートケーブルを用います。

 ケーブルの性能的には十分可能なことですが、事故や混乱の元ですから避けるべきでしょう。目先の便利に眼が眩んでしまった典型的な愚行ですね。

私見

 調光器を制御するなら十分な性能で、ムービングライトや多機能LEDを制御するにおいても大きな不満はなく、何より広く普及しています。

 これがベストだと言い切れる自信はありませんが、現実的なベターでしょう。


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Last-modified: 2021-12-22 (水) 19:24:53